2019年3月31日日曜日

うどん

ご諸兄各位殿


A君は小学校の同級生、幼なじみでした。



名古屋の中区・・・
とは言っても、山王橋の界隈は下町。

昭和の40~50年代。
堀川沿いには材木商が建ち並び、
商店街には八百屋、総菜屋、そしてうどん屋が。
鬱蒼とした八幡神社、夏にはここで屋外映画を。

住んでいる長屋の脇には袋小路があるような、
A君も小生も、そんな下町情緒あふれる、
とても都会な環境??で育ちました。

・・・無い物ねだり、ではないですが、
その反動で、小生は今、渓流釣りにハマっている感じです。




多趣味だったA君。
彼からはいろいろな遊びを教わりました。

幼い頃は鉄道模型に海釣り。
少しだけ色気づき出す年頃には、バイクやスキーなど。

いつも最初はA君がマスター、継いで小生が手ほどきを受けるような。



子供に手が掛からなくなってきた年代に差し掛かり、
A君は自動二輪車の大型免許を取得しました。
そんな頃、小生は渓流釣りを。

高かった10mの本流竿。
どのように家内の目を誤魔化すか・・・

そんな思案に、A君からはこんな悪知恵を。
「隠すように仕舞っちゃダメだね。
 もし見つかっても、本当の値段は言わずに。
 でも、あまり安い金額は言わないこと。
 程々のそれらしい値段を告げて・・・」
流石に、数々の修羅場をくぐり抜けています、A君は。

昔取った杵柄。
A君からはそれから幾度となく、
またバイクに乗ることを勧められました。
それと同時に小生からは、渓流釣りを始めようよ、と。

ただ、ここだけは、上手く噛み合いませんでした。

だって・・・
近眼に老眼の身の上は小生。
恥ずかしながら、まま四輪の運転も疲れるンです。
ましてや、大型バイクなんて。
でも多分、それは同い年、A君も一緒だったかと。

それに・・・
仲間内では喫茶店での会話。
みんなの話を聞いていると、やれ税金だの保険料だの修理代だの。
維持費の話題になると、A君を始め、皆さんご苦労が多いようで。

もっとも・・・
渓流釣りを勧めた小生ですが、
このブログを読んでのとおり、ボ~ズ釣果は当たり前。
小アマゴさんが2~3匹もザラ。
ほんと、腕前が悪くって。

これじゃあ勧められたって、渓流釣りに行きたくならないよね。

正直は良いことかも知れないけれど、
もう少し、ハッタリをカマしても良かったような。

大型バイクに渓流釣り。
ここはお互い様だったかな?



そんなA君から3年前の晩秋、大きな病気を告げられました。
大変な手術を受けて、それから、入退院を繰り返す闘病生活。

聞けなかったけれど、
自分の「定め」をこの時、既に知っていたのかな?

それから仲間内で、いろいろな所へ行きました。

浜松のヤマハ&スズキはバイク博物館と航空自衛隊。
修学旅行先だった、京都の梅小路機関車館や三十三間堂。
そして昨夏、仲間内の単身赴任先、甲府に朝霧高原、白糸の滝。



先週、お見舞いに行ったとき、運良く起きていてくれたよな。
「・・・ここを抜け出して、うどんを食いに行きたいけど、ダメかな?」
聞き取れないような小さな声で。
そりゃムチャだよ、体中にチューブが巻かれた状態じゃ。

感極まって苦し紛れ、出てきた小生の返事が、
「悪いね、おれ、今日のお昼、うどんだったよ。」
「・・・へっ、そっかよ。」

バカだな、オレって。
いつも、大事なときに、これだよ。

正直は良いことかも知れないけれど、
もう少し、ウソをついても良かったような。

次のお見舞いの時には、既にツラそうな表情で、息も荒く寝ていたよな。
もう、声を掛けて起こすことも躊躇(ためら)うくらいに。



A君のことは、よく知っているつもりの自分でした。
でも、それは大きな間違いでした。

卒業してからこれまで、転職を繰り返してきたA君。
職を変わる都度に「またかよ、ダメだよ」と言ってきました。

でも・・・
20年も前に退職した会社の人が、わざわざ式に来るでしょうか?
それも、転職した先の方々が軒並み、古い友人・知人が、次々に。

式での最後のご挨拶。
残された奥様も、A君と一緒になって、とても良い人生だったと。

全部、これはA君の人徳でしょう。
だから・・・
小生も40年も長きに渡って、人生の旅に付き合わされちゃったんだ。

ほんと、困ったヤツだ。



お~い、あんまり先を急ぐなよ。

もう暫くしたら、オレも対岸に渡るからさ。
しかし・・・手持ちぶさただよね、それまでが。

だから、渓流釣りを勧めたんだよ、オレっちは。


満開の桜を背景に、A君は川を渡っていきました。